2010年9月26日日曜日

オフサイド・ガールズ

「オフサイド・ガールズ」
ジャファル・パナヒ監督2006年イラン

数あるサッカー映画の中でも、特に大好きな作品です。

2006年ワールドカップアジア予選も終盤の2005年6月8日、イランはホームのアザディスタジアムにバーレーンを迎え、この試合に勝てば本大会出場とあって、スタジアムには続々とチーム・メッリ(サッカーイラン代表)を応援しようという人たちが押し寄せます。

イランでは女性がスタジアム観戦することは禁じられていますが(一部例外あり)、やっぱり見たい!どうしても生でワールドカップ出場の瞬間が見たい!という女の子たちはあの手この手で潜り込もうとします。

変装姿もいかにも場違いな、男の子になんか見えないよっていう感じの少女も、ダフ屋に足元を見られて値を釣りあげられ、アリ・カリミのポスターまで押し売りされ(このポスターはその後意外と使いでがあったが)、それでも彼女はこの試合をアザディに観に来なければならなかったのです・・・。

この映画をいいと思うのは、女の子パワーの迫力・新鮮さを素直に出しているということに加えて、イランにおける「格差」を、男女の問題のみならず、地域や階層の問題としても描けているところです。
スタジアム警備の兵士は地方出身の若者。
試合の行方とともに、実家の家畜がどうなっているのかが気がかり。
議論となると、女の子たちに適うわけがありません。
彼にとっては、禁じられている試合観戦にやってくる「オフサイド」な女の子は、都会の、高学歴の、優雅な、別世界の人間。
こんな子たちのお遊びの始末のために働かなくちゃいけないのかよ、俺は・・・とかなんとかぼやかずにはいられません。

ラストは(試合の結果を知っているからだけど)実に予想どおり、いわば「明日へのチケット」落ちです。

なお、監督のジャファル・パナヒさんは、この映画製作後、イラン当局との軋轢が大きくなっています。
特に、昨年7月にアフマディネジャド大統領再選の混乱の中での犠牲者追悼集会の折に一時拘束されたり、ベルリン国際映画祭への参加を妨害されたり。
今年の春にはかなり長期にわたって拘束されていました。
彼が現政権に批判的であるのは間違いないですが、マフマルバフ一家の、特に長女のサミラさんなんかの方が対決姿勢としてはより先鋭的なのではないかと思っていたのですが・・・。

サッカーの試合見たさに、冗談ではすまされないレベルの嘘を重ねてチケット代を稼ぎ、アザディにやってくる、イラン少年にしてはあんまり可愛くない男の子を描いた「トラベラー」。
大地震の後の瓦礫の中から、まずはラジオを掘り出して、ワールドカップの試合中継を聴こうとしている人々が印象的だった「そして人生は続く」。
そして、「私たちだって試合が観たい!」と、禁じられた生観戦に挑む女の子たちを見せてくれた、パナヒ監督の「オフサイド・ガールズ」。
サッカー映画の分野でも、綺羅星のごとく才能が輝いていたイランなのですが。
しかし、こういう「弾圧」が繰り返されると、バフマン・ゴバディのようにイラン国外に出るという選択をするしかなくなったり、自主規制をしたりするようになってしまうでしょう。
これからのイラン映画は、のみならず、イランは、どうなってしまうのでしょうか。
案じています。

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