2011年9月12日月曜日

ビーチサッカー優勝記念!モンディアリート

実はロシアはビーチサッカーが強かった。
(ビーチサッカーって、いったいどこでトレーニングしているの?)
今回の大会では決勝でブラジルを12-8で破り見事優勝しました。
記事はこちら(動画つき)

おかげで私もしばらく更新していなかったこのサッカー映画レビュー、ひさびさに書く気になりました。

ロシア人がいなければビーチサッカーにはならない?
モンディアリート

2000年の東京国際映画祭で観たスイス映画(フランス・スイスの共同制作)。
1998年フランス大会を背景に、アラブ系の青年ジョルジュと彼の天敵のような少年アブトゥが始めるマルセイユへのロードムービー。
小憎たらしいアブトゥはアラブ系ながらブラジルサッカーのファン。

なお、上映後の質疑応答で
「フランス開催、しかもフランスが優勝したワールドカップを下敷きにしながら、なぜアブトゥをフランスのファンにしなかったのか?それこそジダンとかの…」
という質問に対し、監督曰く
「1999年製作の作品ですが、実際に企画して作り出したのはそれより前のことで、はっきり言ってフランスのサッカーが強いってことを知らなかったんです
とまあ、この辺から良い意味でも悪い意味でも製作者のいい加減さが垣間見えているかもしれません。

そして、短気でうだつのあがらぬ若者のジョルジュにはサッカーがらみのとある過去があったのでした。
けど、その“過去”は、うーむ、それはないだろう、いくらご都合主義映画の設定でもあり得ないだろう、あまりに安易な思い付きだろう、と言わずにはいられない不自然なそれなのだが。
この二人と同行することになるのは、かなり魅力的なお姉さんルイザと何でも屋のロシア人オレーグ。
この映画はこの二人で救われている、と言って過言ではありません。
アントン・クズネツォフ演じるオレーグは、ジョルジュとアブトゥにさんざん迷惑を被りながら結局は手助けしてくれるお人好し。しかも結構器用だ(何でも屋だから)。
無駄に短気で現状に文句ばかりで無能の主役二人は、オレーグがいなきゃどうにもならない。

ところで、タイトルのモンディアリートは、ビーチサッカー大会のことか、それが開催されている地名のことらしく、「モンディアリート 優勝賞品はマルセイユ(ワールドカップの試合が行われる)への招待券」という看板が彼らの道行くすがらわざとらしく出てくるのです。
それを見て、単純にすっかりその気になる二人。
しかしチームは3人、あと一人は?
で、予想通り都合よく、オレーグ再登場とあいなるわけ。
そしてこれも予想通りだけれど、試合をやっても少年はあんまり役に立たないし、テクニックには自信があるジョルジュも性格に難ありで、唯一まともなオレーグが孤軍奮闘するはめになるのです。
私がこれを鑑賞したのは上記の通り2000年秋のことで、当時はモストヴォイ&カルピンの全盛期ということもあり、「これもギャグか?こんな冷静なロシア人サッカー選手が現実には存在するか?!」と苦笑しつつ観ておりましたよ。

全編サッカー、ワールドカップがキーワードとなっていて、ビーチサッカーの場面もある(クズネツォフさん大活躍)けれど、サッカー映画としては微妙です。
アラブ系の主人公たちの状況は、当時南仏で移民排除の極右勢力が伸びてきた頃だということを踏まえて観るべきでしょう。
でもその描き方は不十分で、すっきりしない。
ラストあたりに出てくるジョルジュの家族は、実際にジョルジュ役のムーサ・マースクリ(脚本も担当)の家族だそうで、監督のニコラ・ヴァディモフともども仲間内で作った映画だという感覚が拭いきれない。
名作とは言えまいが、気楽に観るにはまあまあの一本か(←オレーグさんゆえに大甘評価)。
映画祭上映の後は案の定日本では一般公開はされず、VHSやDVDなどの発売もされていませんが、なぜかNHK教育「シネマ・フロンティア」で2001年に放映されたため、ご覧になった方も多少はいらっしゃるでしょう。
私も録画したので、VHSテープのまま家のどこかにあるはずなのです。

何でも屋オレーグを演じたアントン・クズネトォフさんはこのお方でありましょう。
「モンディアリート」という作品に出演したとは明記してありませんが、90年代からフランスでも活動しているとありますし、こういうお顔だったと思います。

モンディアリート
Mondialito
フランス・スイス (1999年 100分)
監督:ニコラ・ヴァディモフ
キャスト:ムサ・マースクリ/エマ・ドゥ・コーヌ/アントワーヌ・モリーニ/アントン・クズネツォフ/ カルロ・ブラント / エリック・ベレンジェ / ジャン・マリー・コルニユ / サッシャ・ザンコ
2000年東京国際映画祭コンペティション参加作品
ムサ・マースクリは優秀主演男優賞を受賞

2011年7月23日土曜日

Wartime Wanderers

デイヴィッド・ホイットニー監督作品。
これから制作され、2012年夏公開予定(英国で)。
1939年、つまり第二次世界大戦時のボルトン・ワンダラーズの選手ら15人の実話に基づく同名の書籍の映画化。
クラブごと軍隊に組み込まれたということでしょうか。※

Wartime Wanderers film to tell true story of Bolton heroes

実話というので、あちらの人にはどんな結果が待っているのかわかってしまっているのか?
戦争映画でもあるが、皆さん結構無事なので、ディナモ・キエフの悲劇などとは違うのだ。

ボルトンは2005年に来日した時、等々力に川崎フロンターレとの試合を観に行きました。
日本人スター選手獲得前のことで、サッカーファンの知人にも「渋い試合観に行きましたねー」と言われたものだった。

※ある選手の愛国スピーチに導かれて、皆で従軍することになったということです。

日本公開予定や原作本の翻訳予定等については不知(未定?)
詳細がわかったら補足します。

Wartime Wanderers

2011年6月26日日曜日

SUPER 8でウンザ・ウンザ・タイムを満喫

ユーゴスラヴィア!
ユー、ゴ、スラ、ヴィヤ!
ユー、ゴ、スラ、ヴィヤ!
ユー、ゴ、スラ、ヴィヤ!

サッカーのレプリカユニを着てコンサートに臨むミュージシャンはよくいるのでは?
母が大好きなロッド・スチュアートとか。

エミール・クストリッツァは映画監督ですが、この映画では1ミュージシャンということになっています。
ノー・スモーキング・オーケストラというバンドにギタリストということに。

この映画、ノー・スモーキング・オーケストラというバンドのヨーロッパツァーのドキュメンタリーというわけではありません。
ノー・スモーキング・オーケストラはあることはありますが、クストリッツァが映画監督との二足のわらじでバンド活動にいそしんでいる、というのはこの映画を作るにあたっての一種のフィクションです。
まあ、趣味の範囲内ってことで。
ウンザ・ウンザは、聞くと脳内の蛋白質を活発化させ、人生が楽しくなる効果があるとか。
(エセ科学か?!)
まあいろいろ固いことをいわずに、ウンザ・ウンザを楽しみましょう。
いいじゃないですか、人生が楽しくなるフィクションということで。

ノリノリのバンドムービーの中、一番印象的なのは、「ユー、ゴ、スラ、ヴィヤ!」を連呼して、ユーゴ代表への応援を会場全体でするシーン。
クストリッツァとサッカーは切っても切れない仲なのです。
「パパは出張中」から「マラドーナ」まで。

*SUPER8
 エミール・クストリッツァ監督2001年イタリア・ドイツ
*ノー・スモーキング・オーケストラ(エミールの息子のストリヴォールがレプリカユニ(たぶん当時のユーゴスラヴィア代表の)を着ています)
*ウンザ・ウンザ・タイム(聴けます)

2011年6月5日日曜日

コロラード・キッド

ハンガリーの1956年物。
「ウィニング・チケット」同様、人間関係等がわかりにくい面はあるけれど、なかなか味わい深い作品です。

以下覚え書き的に、まとまりなく、書き留めておく。

まず、主人公のクロイツァー・ベーラを演じた俳優が、どこか観たことある感じ…、そうだ、ミヒャエル・バラック似なんだ。
語学ができ、哲学書を読み、でもちょいわる?で、インテリではなくて労働者。
と、少々捕え難い人物でありました。
女性たちも、魅力的なんだけど、結局何者なんだ?というのが残る。

監督さんによると、「1956年の50周年企画で補助金狙いだった」と本音?を漏らしつつ、その後もハンガリー社会に潜む裏切りの文化についても取り上げたかったと。
なるほど。


「ソフィアの夜明け」(ブルガリア)と「コロラード・キッド」(ハンガリー)

左が監督さん

ラスト近くにある、車掌さんとのサッカー談議。
(「ウィニング・チケット」にもあったカルチョ絡みの話。)
車掌さんお勧めのクラブはフラディFradi(フェレンツヴァーロシュ・サッカー・クラブ(Ferencváros Torna Club:FTCの通称)。
国内では強豪といえるけれど、有名なのは強さ故というよりフーリガンがたびたび問題を起こすから。
お勧めの選手はバラディ・ベーラ?というFW。
70年代なので、もはやマジック・マジャールは崩壊しているころの選手。
もう一度観ないと正確にはわからない。

主人公、刑は確かに重かったから、復讐心が芽生えるのはわかるが、当局サイドでみるとそれなりのことをしているでしょ、という気もする。
しかも誰に向かって復讐するんだよ…。

コロラード・キッド

Kolorádó Kid
ヴァーグヴルジ・B・アンドラーシュ監督2010年ハンガリー・イギリス

2011年5月8日日曜日

中継基地 "米ソ連合"時代のサンクチュアリ

気がつくと、2か月以上新規投稿をしていない。
苦し紛れに別ブログにずっと前に(2010年9月23日)書いたものをそのまま載せます。
なお、サッカー場面はほんの少ししかありません。
もっとあってくれたらよかったのになあ、と思います。
そんな時代のサンクチュアリ

昨日、仕事の後「終着駅」を観に行った。
まさかと思う友人が観に来ていた。
いや、この映画を観に行くだろうとは思っていたが、最終回で終映がかなり遅くなるので、そういう時間にはいないと思った。
友人は案の定「英語だったし」とあまり満足はしていなかった。
今日の新作ロシア映画上映会に行くかと尋ねると、別の予定が入ってしまっているので、ということだった。

そして今日は雨。
だから人は少ないだろう。そう思った。
その点も案の定だった。
そしてこれも案の定だったのは、上映会の映画はとてもよかったこと。

アレクサンドル・ロゴシュキン監督「中継基地」"Перегон"2006年
ロゴシュキン、さすがだなー。
「ククーシュカ」は凄くいい!ってほどではなかったが、これならどこに出しても恥ずかしくない映画だ。
一応主役?のセルゲイ・リスネフスキー役のダニイル・ストラホフ
一見マラート・イズマイロフ風(もっと美男にした感じ、軍服が似合う)。
2007年には「戦争と平和」でアンドレイ・ボルコンスキーを演じているそうですよ。
出番は少ないがデニス・ヌリン(ゼロ中尉)役のオレーグ・マルキンもなかなかのハンサム君。
1984年生まれ、サラトフ専門学校卒業。
映画はまだこの1本のみのようです。
コンスタンチン・トゥロフスキー(エース(ロシア語でトゥース))役のイヴァン・プリーリも1984年生まれでサラトフ専門学校卒。クラスメイトなんだ。
(若干ビリャレトジノフっぽい)
プリーリやモールス役アンドレイ・シバルシンとかはいかにもロシアのその辺の若者って感じ(凄くハンサム、ではない)で、リアルな演技がいいなあ。
若くてぴちぴちのソ連兵を演じるのに見事にはまっています。
この子たちがいるのはソ連の果てのチュトコ半島。
第二次大戦時、アメリカからソ連の戦地への支援物資が運ばれる、その中継基地。
アメリカから物資を運んでくるパイロットは女性(それもマイノリティーが多いようだ)。
となると、ソ連兵たちは当然嬉しくなってしまうわけです…。
ロゴシュキンお得意の戦争もの&ユーモア&言語によるコミュニケーション不能状況もの。
なので、とても手なれた感じです。
実はかなりシリアスなことも扱っていて、スターリン時代ならではの戦慄する場面もところどころに配置されているけど。
文明と自然と、みたいな問題を提示していたりとか。
登場人物たちが殆ど戦死(おそらく)した後のチュトコ半島で、「なぜ人を撃つの?」(しかもそれが英雄視される)という子どもの問いかけと、「それは子どもの質問だ」というチュトコの老人の言葉で映画は終わる。
まあそんなことを書くと酷く堅苦しくなるので、この辺でやめておきます。
そんなことより!?これは近年稀にみる、ハンサム君輩出ロシア映画として、私は強くこの映画を推したい!
サッカー場面がもっと多くてストーリーに有機的に絡んでいたら★5つだったのに。

なお、今回の新作ロシア映画上映会は、たったの20分しか遅れずに開映し、色も出たし、音も出たし、字幕も最後までついたし、上々でありました。
アレクサンドル・ロゴーシキン監督2006年ロシア
監督名、私は「ロゴシュキン」という表記にしていることが多いです。
「護衛兵」以来書きなれているというだけです。

2011年2月21日月曜日

太陽に灼かれて

あと2時間しかない、と知らされて、その男はサッカーに興じた

悲劇の予感がいやます中、コトフ大佐一家の男性たちは、クロケー場でサッカーをしている。
コトフは連行されるまでの残された2時間の間に、それを家族には告げずにごく普通に過ごし、昼食後はいつものようにサッカーをすることを選ぶ。

「サッカーだって?クロケーはやらないの?」と、メンシコフ演じるミーチャ、コトフ家に不幸をもたらす彼が尋ねると、無垢なナージャ、コトフの娘は答える。
「クロケーやテニスはブルジョア的だってパパは言うの。サッカーならいいんだって」
(それがソ連時代のスポーツ観・サッカー観だったのだろうか。)

悲劇の瞬間が迫りくる中でのサッカー。
観ていて胸が痛くなる…。

幸福な時間…サッカーをしている間…はすぐに経ってしまう。

ミハルコフのあざといまでの名作。
完璧な映画作品。
スターリン、粛清、裏切り、家族、可愛い娘。
束の間にきらめく幸せ、暗転する運命。
そんな中で、サッカーをする至福はあまりにも…刹那。

コトフは銃殺され、マルーシャは収容所で獄死、ナージャも逮捕され、死は免れ、後に名誉回復したものの、カザフスタンに追いやられる。
そういったラストのはずであった。

が、それは実は嘘だったと、続編ができてしまったのだ。
許せないなあ。
でも、続編にもサッカーの場面はあるだろうか?

ニキータ・ミハルコフ監督「太陽に灼かれて」
1994年フランス・ロシア

ようやくDVDが発売されるのだと。

2011年2月19日土曜日

DER GANZ GROSSE TRAUM(とてつもなく大きな夢)改め コッホ先生と僕らの革命

「グッバイ・レーニン!」のダニエル・ブリュール主演、ドイツにサッカーを伝えた実在の教師コンラート・コッホのお話だそうです。
ドイツでは2月下旬から公開。
日本では公開されるのか?
2012年3月30日追記:公開決定です!今年の秋公開予定、配給ギャガ
2012年7月1日追記:邦題は「コッホ先生と僕らの革命」、9/15~TOHOシネマズシャンテ
2013年1月13日追記:ヨコハマ・フットボール映画祭2013で上映されます。
でも、2回観るまでもないから行かないかも。

予告トレーラーです。



Der ganz große Traum

バルセロナファン(実はバルセロナ生まれ)&ケルンファン(ケルン育ち)のダニエル・ブリュール。
サッカー選手たちとの記念写真だ。
違和感なし。

追記
というか、見終わっての感想。
やっぱりダニエル・ブリュールではなくて、もっと違う人が演じた方がよかったんじゃないかな。
 ブリュールは器用に演じているんだけれど、それにとってもサッカー好きそうなんだけど、どこか教師に見えない。どうしてだろう?
★選手の中に黒髪の子がいなかったのはプチ残念。プレイする時も皆お坊ちゃま服で可愛くはあるが。
★しかし、シュリッカー親子が素敵だったぞ!
 特にエンゲルバーガー(「がんばれベアーズ」の)みたいなキーパー君。
 選手としてもいいし、機転も効くし、人づきあいも悪くないし、研究心に富むし、なかなか商売っ気もある。頭もいい。
★初監督作品ということで、定石どおりのキャラクター、ストーリーだった。期待値が大きかった故に「おもしろくなくはない」くらいの微妙な感想になってしまった。もっと工夫すれば、もっとおもしろくなったのになあ。登場人物も上記のキーパー君以外にはとりたててて魅力的なのが見当たらないのだ。
やっぱり「僕らの革命」って邦題はどうかと思う。
 「ベルリン 僕らの革命」と被る(ダニエル・ブリュールだし)。
 さらに革命を、なのだろうか、気分として。
★「オデッサ・スタジオ」に書いたことを改めなければならない。コッホ先生は英語の先生ではなくて、古典語(ラテン語か?)の先生だったとのこと。この設定変えはコッホ先生を妙にイングランドびいきにさせてしまっている。先生は実際には英語習得の道具としてではなく、もっと純粋にサッカーを愛していたのでは?という気になった。

2011年1月8日土曜日

おやすみ、クマちゃん

これ、あったの忘れていました。
Windows Liveのブログを始めたその日(2007年10月)に書いたものです。

純粋にお子様向けの、素朴ながら丁寧な作りの良質なパペット・アニメーションです。
ポーランドのアニメーション、旧ソ連や旧チェコスロヴァキアの作品と比べて日本での紹介され方で後れを取ってしまった感があります。しかしそこはやはり採算度外視で手間暇かけて作れる社会主義体制下のメリットが存分に生かされており、安心して見られる良品となっております。
それにしてもお客の入りはさっぱりだったなあ。1900の回で6人くらい?

以下感想
サッカーシーンが思いの外多かった。
主人公のクマ、友達のウサギ、コブタ、カモ兄弟、小さいウサギ兄弟のボール遊び、特にブタちゃんが奮闘。
私の知る限り、旧ソ連や旧チェコのアニメ作品だと、サッカー場面は案外少ない。
チェブラーシカのシリーズには見当たらないし、スピード狂的なポヤルとかにはあってよさそうに思うのに。
3人のコサック」サッカー編(コサックのおっさんたちがフランスの宮廷サッカー、ドイツの軍隊サッカー、イングランドの土砂降りサッカーと対戦し、あり得ない展開で勝利する)は大好きだけど。
それらに比べると、日常の中にごく普通にサッカーが出てくるという印象です。

「おやすみ、クマちゃん」が子ども番組として制作されたのが75年~87年というから、ちょうど今活躍している選手たちが幼少の頃。
ポーランドのフットボーラーたち、二世選手スモラレク、元気者GKコヴァレフスキはこのアニメを見て育ったのね。

2011年1月5日水曜日

君を想って海をゆく

ひところの台湾映画みたいな邦題(「君を送る心綿々」「川の流れに草は青々」)でちょっと退いてしまうところ(原題は“Welcome”、なんとも皮肉なものになっている)だが、

ドーバー海峡を泳いで渡る―
イギリスに暮らす君に会うために、
マンチェスター・ユナイテッドの選手になるために。
というチラシの言葉に惹かれた。
「泳ぐ」「密航」というと、
*故セルゲイ・ボドロフ息子とオレグ・メンシコフの「イースト・ウェストー遥かなる祖国」(EST-OUEST
*エヴゲニー・ミローノフとエヴゲニー・ツェガーノフの「宇宙を夢見て」(Космос как предчувствие)
などが思い出されるが、泳いであちらに行けたら世話ないんで、こういうのはまず成功しないとみたね。
(なまじサクセス・ストーリーになったら、同じように目指す人たちが続出…なんということになると、問題だ、人命におおいにかかわることなのだから。)
だから、失敗か、結果についてはぼかしてしまうか。

お正月早々、重たい映画を観てしまったなあ。
でもよかった。
難民問題についてはここでは語るまい。
(別のところでそのうち書こうとは思う。思うところは諸々あって千々に乱れることよ。)
しかし、難民の手助けをすると犯罪になる(通報され、勾留・尋問される)という法律がフランスで施行されているというのは凄い。
難民に対してどういう方策をとるのかという問題以前に、まさに市民的権利の根幹をなす思想の自由の侵害ではないか。
逆に「手助けをしなかったら犯罪」だとして裁かれるようなことになったら(道義的な次元ではなく、法律的にということです)?
そんなの、おかしいでしょ?

難民青年がマンチェスター・ユナイテッドの選手になることを夢見る若者という設定で、映画はサッカー中継の音声とともに
「2008年2月13日」
という字幕が現れ、マンチェスター・ユナイテッドらしきチームが試合をしているTV画面が示される場面から始まる。
青年はビラルという名だが、足が速いので「バスダ」(「ランナー」という意味のクルド語)と呼ばれていた。
サッカーが得意だと言う。
映画では、収容所内でちょっとだけ飛んできたボールをトラッピングする場面があるが、ここは明らかに別撮り。
それにしても、ほぉおおおお!というテクニックを披露するでもなく、「この子、本気でプロ選手を目指しているのか?」という感じがしてしまう。

サッカーが好きで、ある程度上手ければなおさら、その歳(17歳)でイングランドに行って、いきなりトップリーグの選手を目指すのがどれだけ無謀なことか、わかりそうなものだが…。
と思う一方、西アジアの男の子はほんとに純情だから、その無謀なことでも一度思い込んだらやりかねないんだよなーとも思う。

映画自体は前述したとおり、フランスのカレという都市から対岸のイギリスにドーバー海峡を泳いで渡ろうとするものなので、サッカー映画というよりは、水泳映画。
監督を始め制作した人たちも、それほどサッカーファンではなかったかもしれない。

ラストはマンチェスター・ユナイテッドのクリスティアノ・ロナルドがオリンピック・リヨンのゴールにスライディング・シュートを叩きこみ、同僚たちの祝福を受けるTV画面で唐突に終わります。
2008年3月4日、ヨーロッパチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦第2試合。

うーむ、クリロナかあ。
ケン・ローチとかだったら、ここはラーションとかイブラヒモヴィチとかにしちゃったかもね。
私ならベルバトフかな。

フランスでは、この後もサルコジ政権下でロマの人たちの強制送還が行われていたりするのです。
上述したような法律が成立してしまったこと自体、難民に対するフランス人の厳しい目が存在する現実があり、事態がよくなっているわけではないことを窺わせます。
が、この映画が百万人以上を動員し、商業的成功を収めたことは、そんなフランスのもう一つの一面を示してくれています。

「君を想って海をゆく」
「イースト・ウェスト 遥かなる祖国」
「宇宙を夢見て」