ドーバー海峡を泳いで渡る―というチラシの言葉に惹かれた。
イギリスに暮らす君に会うために、
マンチェスター・ユナイテッドの選手になるために。
「泳ぐ」「密航」というと、
*故セルゲイ・ボドロフ息子とオレグ・メンシコフの「イースト・ウェストー遥かなる祖国」(EST-OUEST)
*エヴゲニー・ミローノフとエヴゲニー・ツェガーノフの「宇宙を夢見て」(Космос как предчувствие)
などが思い出されるが、泳いであちらに行けたら世話ないんで、こういうのはまず成功しないとみたね。
(なまじサクセス・ストーリーになったら、同じように目指す人たちが続出…なんということになると、問題だ、人命におおいにかかわることなのだから。)
だから、失敗か、結果についてはぼかしてしまうか。
お正月早々、重たい映画を観てしまったなあ。
でもよかった。
難民問題についてはここでは語るまい。
(別のところでそのうち書こうとは思う。思うところは諸々あって千々に乱れることよ。)
しかし、難民の手助けをすると犯罪になる(通報され、勾留・尋問される)という法律がフランスで施行されているというのは凄い。
難民に対してどういう方策をとるのかという問題以前に、まさに市民的権利の根幹をなす思想の自由の侵害ではないか。
逆に「手助けをしなかったら犯罪」だとして裁かれるようなことになったら(道義的な次元ではなく、法律的にということです)?
そんなの、おかしいでしょ?
難民青年がマンチェスター・ユナイテッドの選手になることを夢見る若者という設定で、映画はサッカー中継の音声とともに
「2008年2月13日」
という字幕が現れ、マンチェスター・ユナイテッドらしきチームが試合をしているTV画面が示される場面から始まる。
青年はビラルという名だが、足が速いので「バスダ」(「ランナー」という意味のクルド語)と呼ばれていた。
サッカーが得意だと言う。
映画では、収容所内でちょっとだけ飛んできたボールをトラッピングする場面があるが、ここは明らかに別撮り。
それにしても、ほぉおおおお!というテクニックを披露するでもなく、「この子、本気でプロ選手を目指しているのか?」という感じがしてしまう。
サッカーが好きで、ある程度上手ければなおさら、その歳(17歳)でイングランドに行って、いきなりトップリーグの選手を目指すのがどれだけ無謀なことか、わかりそうなものだが…。
と思う一方、西アジアの男の子はほんとに純情だから、その無謀なことでも一度思い込んだらやりかねないんだよなーとも思う。
映画自体は前述したとおり、フランスのカレという都市から対岸のイギリスにドーバー海峡を泳いで渡ろうとするものなので、サッカー映画というよりは、水泳映画。
監督を始め制作した人たちも、それほどサッカーファンではなかったかもしれない。
ラストはマンチェスター・ユナイテッドのクリスティアノ・ロナルドがオリンピック・リヨンのゴールにスライディング・シュートを叩きこみ、同僚たちの祝福を受けるTV画面で唐突に終わります。
2008年3月4日、ヨーロッパチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦第2試合。
うーむ、クリロナかあ。
ケン・ローチとかだったら、ここはラーションとかイブラヒモヴィチとかにしちゃったかもね。
私ならベルバトフかな。
フランスでは、この後もサルコジ政権下でロマの人たちの強制送還が行われていたりするのです。
上述したような法律が成立してしまったこと自体、難民に対するフランス人の厳しい目が存在する現実があり、事態がよくなっているわけではないことを窺わせます。
が、この映画が百万人以上を動員し、商業的成功を収めたことは、そんなフランスのもう一つの一面を示してくれています。
「君を想って海をゆく」
「イースト・ウェスト 遥かなる祖国」
「宇宙を夢見て」
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