東アジアのサッカーには極めて疎い私は、このドキュメンタリー映画の主人公である、鄭大世(チョン・テセ)という選手のことは知りませんでした。
なんか名前は聞いたことがあるな、程度。
彼は日本で生まれ育った在日三世のコリアン。
韓国籍。
映画には一切出てこない父親は韓国籍で、おそらくほぼ日本に同化していて、彼にも日本の教育を受けさせたいと願っていたとのこと。
しかし、彼の母方は朝鮮籍で、母親は「きちんとした“民族教育”を」と強く願い、父親とは大喧嘩した末、強引に朝鮮学校に入れる。
彼は学生時代から際立って優秀なサッカー選手だったらしく(家庭用八ミリフィルムなどかなり幼い頃からの映像が残っているのだ)、Jリーグは川崎フロンターレで活躍し、現在はボーフム(ドイツ)でプレイ。
この“民族教育”がどういうものか、私は知らなかったし、実のところあまり関心も持っていなかったのです。
むむむ。これは…。
民族教育というより個人崇拝強要のようなんですが。
戦前日本の“御真影”崇拝の図にやたら似ているような。
ソ連・ロシア映画でスターリンの大肖像画なんぞが出てくると、そこは笑う場面です、という癖がついていたのですが、どうもそこでくすりとしてはいけなかったみたい。
彼のお母様の推奨する“民族教育”は、かくも強烈な印象を与えました。
ただ、そういう教育が行われていたとしても、人間というものは、教育する側の思い通りの人間に全員が育つことは絶対にないわけです。
彼にしても、おそらくお母様が望むとおりのがちがちの国家主義者には育っていないようです。
彼の国籍は韓国であり、日本で生まれ育ちJリーグで活躍していたことで日本への国籍変更することも不可能ではなかったので、韓国代表にも日本代表にもなれた(実力的にはクリアできていたようです)はずですが、鄭大世(チョン・テセ)選手、幾多の困難が控えていることを承知の上で代表は母の祖国である北朝鮮を選択します。
このあたりまでは、例えばフロンターレファンの人など、普段からJリーグを観ている人には周知のことだったでしょう。
北朝鮮代表にはなったものの、現地育ちの選手たちとすっきり打ち解けることはありません。
背負っているものがそれぞれ違います。
同室は日本育ち北朝鮮籍のアン・ヨンハ(安英学)選手。
この人のことも名前しか知らなかったのですが、素晴らしく美しい選手ですね。
この選手は物静かに隣にいただけなので、多くを語りませんでしたが、鄭大世選手とはまた似て非なるバックボーンを背負っているはずで、この人の言葉も聞きたいと、欲張りながら考えました。
さんざん悩み、壁にぶち当たり、それでも前に進んでいる様子が、ナレーションもなく淡々とした映像で語られています。
北朝鮮代表のロッカールームやバスの中など割と秘蔵映像が多いです。
TESE:姜成明監督2011年日本
公式サイト:http://chongtese.net/
★この作品はYFFF2012ヨコハマ・フットボール映画祭(2/24-26 黄金町・ジャック&ベティ)で上映されるそうです。
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