「君のせいで得点シーンが観られなかった」
…って、それ言ったら怒らせること間違いない。
昨日、川崎市市民ミュージアムでケン・ローチ監督「まなざしと微笑み」を観ていて、思わず声を上げそうになった場面です。
主人公の不器用さ、特にこのスタジアムでのデート場面で際立っていました。
80年代、慢性的不景気、失業問題を抱えたイギリス。
特に北部の鉄鋼の町シェフィールドは高校卒業した若者に就職先は殆どありません。
主人公はそんな手持無沙汰な毎日を送る若者です。
失業中ながら恋人ができ、その彼女が一緒にサッカーを観に行きたいと言い出し、「女の子がいると仲間と盛り上がれない」と乗り気ではなかった主人公でしたが・・・。
応援に熱が入ってきたところで、彼女の具合が悪くなり、「外に出る、帰りたい」という訴えに対して、彼女の体調を気遣うより試合の行方を気にしている(のがよくわかる)のがいけません。
もちろん、一緒にサッカーの試合を観たいと言い出したのは彼女の方でしたが。
そして、一旦廊下に出たところで歓声があがるので試合を観に、彼女を置いて座席に戻り、再び彼女の元に来て言ったのが冒頭の台詞。
結局彼女は家に帰ることになり、主人公は試合を気にしつつ「バス停まで送ろうか?」と発言(←家まで送れって!)、そのうえ出入口係に「すぐ戻るから」と言うなどこの上まだ彼女の体調よりサッカーを気にしている無神経さで、案の定「もう二度と会わない」と申し渡されてしまいます。
よくあるんだろうなあと思われるサッカー失恋の一幕でした。
あのね、彼女を連れて行った時点でその日は彼女優先にするという覚悟をしないと。
彼女にとっては最悪の観戦デビューとなり、もしかすると二度とサッカーなんて観に行かないという気持ちになってしまったかもしれません。
ネタバレしてしまうと、実はこのカップルはこういう後味の悪い別れ方をしていながら、一旦はよりをもどします。
が、さらに試練は待ち構えており、ラストでは彼女から将来についての選択を迫られることになります。
それは延々と求職活動しても就職できない主人公は、陸軍に入った親友にやや自慢めいた話を披露されて心が相当ぐらつきます。
(陸軍のリクルートは映画の冒頭にあり、親友はそれであっさり入隊しますが、鉄工所勤めで労組の活動家でもありそうな父親の猛反対で、主人公はその時点ではパスしますが、ここで再び動揺が走ります)。
そこで彼女は入隊するなら別れる、と申し渡します。
でも、当面失業状態は続きそうです、軍に入らない限りは。
しかも、歴史展開を知っている観客は、この後イギリスの福祉がより悪くなるのを知っているし。
さあ、どうする?
川崎市市民ミュージアムでの最後の最後の企画上映(来年度から民間委託されるためこれまでのような垂涎ものの企画上映がなくなる可能性大)インディペンデント映画特集、Part1《ケン・ローチ初期傑作集》は、随所にブリティッシュロックやサッカーのモチーフがちりばめられ、文字通り若きケン・ローチの才能あふれる作品を堪能できるものです。
最近のローチ作品の登場人物は、貧しくともしたたかに反撃するようになっていますが、初期作品では弱者はあくまで叩かれて落ちていくので、観ていてもう居たたまれなくなります。
日本では劇場公開されていない、TV用映画も含めた70~80年代の作品をフィルムで観られて感謝です。
映像ホール、いつもよりずっと混んでいました。
レンフィルム、戦後ポーランド映画、チェコアニメ、オリヴェイラ特集。
質の高いレアな作品の上映を最高の環境で提供してくれた川崎市市民ミュージアムに心から感謝を申し上げます。
ケン・ローチ自身の経験でもありそうな?サッカー絡みでの失恋教室と、軍隊リクルートの誘惑。
今よりもずっと苦みの強い作風が若々しい。
「まなざしと微笑み」
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