2012年5月20日日曜日

エターナル―奇蹟の出会い

ロシア少年たちの少林サッカー、「エターナル 奇蹟の出会い」

今までこのブログには、「ロシア」のラベルでは5作品載せている。

中継基地 "米ソ連合"時代のサンクチュアリ(日本未公開)
太陽に灼かれて
ひまわり
ワイルド・ワイルド・ビーチ(映画祭上映)
ルサルカ 水の精の恋(日本未公開)
しかし、上記の作品において、サッカーに占める割合はそんなに高くない。
という意味においては、上記の作品はどれも狭義のサッカー映画ではなくなる。

アニメーションは別にして、旧ソ連圏の(純粋な)サッカー映画を、実は私は観たことがなかったのだ。
サッカー・バレエ(ショスタコ―ヴィチ作曲「黄金時代」初演版)だってソ連にはあったというのに、そしていっぱしの映画大国だったはずなのに、ロシア(ソ連)サッカー映画といってぱっと思いつかないのは何故なんだ?
ロシア映画関係のオーソリティーにいつか確かめようと考えているのだが、いったいロシア・ウクライナなど旧ソ連圏の国では、サッカーをテーマにした実写映画は作られていたのだろうか?
(まあ、ドキュメンタリーならありそうな気はするが、日本で上映されるような作品かどうか。)

そんなことを日々考えていた私に、遂に福音がもたらされたのです。
ロシアのサッカー映画が公開される!

その名は「エターナル 奇蹟の出会い」

私の知る限り、旧ソ連圏初の本格的サッカー実写映画なので、マニアックにいろいろ書いていきます。

原題«Выкрутасы»(巧妙な言い逃れ)
これは、地方都市の教師をしている主人公ヴャチェスラフ・コロチロフ(作品中では名選手と同名ということになっているが、実在はしないようだ。ヴャチェスラフの方ならマラフェーエフがいるが)が結婚退職してモスクワで行われる結婚式に行こうとするのに、偶然プラス校長の企みによって地元の少年サッカーチームの監督にさせられてしまう

早く試合に負けてモスクワに行こうとする

なのに、少年たちはトーナメントを勝ち進んでしまう

モスクワに行けない

モスクワにいる婚約者ナージャ(ミラ・ジョヴォヴィチ)に言い訳する

負けるためにいろいろ算段する

しかし勝ってしまう

また言い訳する
・・・というストーリーを表しています。

こういう“よんどころなき事態”が生じた場合、「正直に事情を説明したらいいじゃないの!」といつも思うのだが。
でも、映画界のお約束では、恋人がサッカーに関わると、自分のことがないがしろにされてしまう、故に女性にとってサッカーは恋人との親密なつきあいの阻害要因=不倶戴天の敵なので、ここでも「サッカーの大会で行けなくなった」とは言えなかったのでしょうか。


スラーヴァ(ヴャチェスラフの略称)とナージャが冒頭で出会う場面は、早回しの多用(最近のロシア映画には実に多い、多すぎる)からして、「ピーテルFM」っぽい雰囲気だ。
主人公が婚約者のいる女性に恋して、元々の婚約者の方がだめになる、という点でも「ピーテルFM」と被るが、主役がハベンスキーなんで、「続 運命の皮肉」がより強く思い出される。

「あいつらなんて負け犬のどうしようもない奴らだ」などと、(人生のというより)社会的な勝ち負けについての台詞が散見されるが、今どきのロシア人ってそういうことを意識しているのでしょうかねえ。
「人生に後半はない」なんて言葉も出てきて(しかし!ゲームには後半も、ロスタイムも、延長戦も、ときにはPK戦もあるのだよ、いつも諦めが早すぎるロシアのフットボリストたちよ)、若干浪花節が醸し出されるけれど、ミャフコフが「続 運命の皮肉」で言っているほどは説教臭くありません。

監督は「不思議惑星キン・ザ・ザ!」等に出演していたレベン・ガブリアーゼ。
初監督作品とのこと。

主演はコンスタンチン・ハベンスキー(あの彼か。「ナイト・ウォッチ」シリーズや「続・運命の皮肉」、あと「ウォンテッド」とかの。ハンサムとは思えないのに何でロシアで人気があるんだろう?)、奇蹟の出会いのお相手がミラ・ジョヴォヴィチ(確かアルトゥール・スモリヤニノフくんに出会った2003年の東京国際映画祭では、彼女主演の「ジャンヌ・ダルク」の宣伝がそこここでされていた。でもその作品を含め今まで出演作を観たことがなかった)。
脇役には、
♪ヒロイン(ナージャ)の母にはミラの実際の母ガリーナ・ロギノヴァ(元々女優です)
♪ヒロインの元婚約者にはイヴァン・ウルガント(代々俳優一家。濃~い人相がケルジャコフを想わせる?!)
♪悪役ЦАОモスクワ監督にはセルゲイ・ガルマシュ(「ヤクザ・ガール」「戦火のナージャ」「12人の怒れる男」「カティンの森」等々最近日本で公開されるロシア関係映画に実によく出ている)
♪正義の味方?の国会議員に、「モスクワは涙を信じない」の監督で、「UFO少年アブドラジャン」で子どもの頃からUFOに遭遇するのが夢!という将軍、「ナイト・ウォッチ」シリーズでは二次元美少女オタクな闇のリーダー(ゲッサーでしたっけ?)を嬉々として演じていたウラジーミル・メニショフ

サッカーの試合シーンに出てくる少年たちは、スラヴァ(主役)が率いるパリチキ(おそらく架空の地名)チームの少年たちを始め、対戦相手のロストフチェフ、タンボフ、アルザマス、ЦАОモスクワ(設定がツェスカ・モスクワぽい)のメンバーまで、全てエンドクレジットに出ていました。
(DVDが出たらチェックすることになる。)

「少林サッカー」ロシア編・少年版とも言えそうなアクロバティックな技を繰り出す、我がFKパリチキのメンバーは、
♪Саша "Кара"サーシャ(カーラ:アルシャーヴィンに憧れる、少々問題ありのキャプテン。字幕では「カール」となっていたが、"Кара"(罰)である。)・・・Савелий Гусевサヴェリー・グセフ
♪Чумаチューマ(ペスト)・・・Михаил Никольскийミハイル・ニコリスキー
♪Косойコソイ(やぶにらみ:とんでもない方向にパスする子。字幕では「寄り目」だったか)・・・Дмитрий Гогуドミトリー・ゴグ
♪Дарикダリク(ペルシャの金貨:「究極のビビリ」と仲間内から呼ばれていた煉乳大好きっ子。しかし異能が眠っていた。)・・・Иван Дёминイヴァン・ジョーミン
♪Шпалаシュパラ(枕木)・・・Глеб Степановグレープ・ステパノフ
♪Кукарачаクカラチャ(スペイン語のゴキブリのことか)・・・Александр Рахимбековアレクサンドル・ラヒムベコフ
♪Копчикコプチク(アカアシチョウゲンボウ(猛禽類)、字幕では「何やらテール」などとされていた(「尾骨」という意味もあるが…):可愛い顔して相手チーム選手を恫喝するGK)・・・Олег Масленниковオレグ・マスレンニコフ
♪Четырёхглазадзеチェティリョフグラザーゼ(四つ目:メガネ男子でスイカを頭上に載せて運ぶのが得意)・・・Джумбер Ардишвилиジュムベル・アルジシヴィリ
♪Ренатикレナチク(回転技の軽業師。マラチクとペアを組む)・・・Михаил Гостищев ミハイル・ゴスチシチェフ
♪Маратикマラチク(回転技の軽業師。レナチクとペアを組む)・・・Юрий Гостищевユーリー・ゴスチシチェフ
やっぱりこの二人は双子ですね。
♪Чирикチリク(10ルーブル、または小鳥のさえずり)・・・Иван Слесаренкоイヴァン・スレサレンコ
♪Козюляコジュリャ(毒蛇)・・・Илья Сологубイリヤ・ソログブ
♪Чичаチチャ・・・Дмитрий Былининドミトリー・ブィリニン


皆さんストリートチルドレンということで、種々のかっぱらい技をサッカーに応用し(普通、余裕で反則のはずですが)、ペアワークもばっちりです。
絵に描いたような伝統的なロシア美少年、というわけではありません。
可愛いけれどちょっとブチャイク系。
ロシア代表のアレクサンドル・ココリン(愛称ココラ)とかU21のデニス・チェルィシェフ、フョードル・スモロフあたりをイメージするといいでしょうか。

ラストにアレクサンドル・ケルジャコフが本人役でカメオ出演、「君の憧れのシャルシャーヴィンが愛用している」「アルシャーヴィンだよ!」という台詞、「ピーテルFM」にどことなく似ているといった点にみるように、ゼニット・サンクト=ペテルブルグ仕様かなあ、と思っていたら、モスフィルムなんですよね、この映画。

生ではなかったけれど、ケルジは素敵でした。
遠路大阪まで観に行った甲斐があったというものだ
彼はほんとに2018年には○○○○○○○かもしれません。

予告トレーラーではなく、ケルジがいっぱいのメイキングフィルムです。


ミラ・ジョヴォヴィチはアメリカ国籍のウクライナ出身(カリャカと同じドニエプロペテロフスク)の女優(父がセルビア人、母がロシア人?)だが、ロシア映画には初出演だとのこと。
「ロシア映画に呼んでくれてありがとう」と、泣いて語る姿が最後のNGシーンの前にあります。
アメリカで育っているせいか、「ウォンテッド」で観たアンジェリーナ・ジョリーなどと殆ど見分けがつきません。
脳内破壊シーンが繰り返されるのは、彼女の出演作へのオマージュなのでしょうか。

2012年5月4日金曜日

あなたがまぶしい、草蹴球

このオランダサッカー映画をまだ載せていなかった。
良作です。
投稿日: 2009年2月28日
1998年のオランダ映画祭(草月ホール)で一番観たかった作品。
招待状も手に入れたのだけど、その日の都合が悪くなって、教会の友人に譲ったのだった。
返す返すも心残りだった。
そんな私の心の片隅にあったものを、神様は気にかけてくださったのだ。
映画祭で観られなかった作品は大部分その後公開される機会もなく観られないままなのだけれど、何と夢は叶った。
10年以上経って再び催されることになった「オランダ映画祭2009」の「オランダ映画近作選」で、リバイバル上映がある!
(10年以上前の作品なのに「近作」なのか?)
しかも今度は残業さえしなければ観に行けるじゃないか!
よし、行くぞ。残業なんかしないもんね、この日は。
というその作品は「オールスターズ」という、草サッカー映画でした。
10年越しの願いがかなって、そう、何だか高校時代のサッカー部の憧れのエースストライカーに再会できたかのような気分(鉄壁を誇るキーパーでも可)。

19歳という設定だったとは、今気がついてちょっとびっくり。皆さん29歳くらいに見えたな。
サッカー映画としての比重より青春群像劇としての比重の方が大きく、それもかなり地味で(デンマークとかの映画みたいに)、『幸せになるためのイタリア語講座』ぽい。
キャスト
俳優さんたちは1960年代半ば生まれの人が多く、10年前というと19歳ではないねえ、確かに。
率直に言って、すごくカッコいい人や美青年はいません。
というか私好みの人はいませんでした。強いて言えばJohnnyがいいかしら。
俳優さんたちの容姿も、演技も、設定も、あまり華やかなものではありません。

にもかかわらず、この私の10年越しの恋は、本物だったと言えます。
いい映画でした。
結構感動しました。

サッカーの試合をしている場面はそれほど多くはなく、むしろかつては彼らの生活の中の重要な一部であった草サッカーが、もはやそうではなくなっていること、彼らとサッカーが急速に引き離されつつあることを、割と生真面目に描いています。
そうなんだよね、10年続けてゆくことって、大変なんだよね、ブラム、君はとっても偉いよ。

この映画、2009年夏(つまり今年)には続編ができるみたいです。
観たいよ!オランダ映画祭で、またやってくれますか??
この作品も、DVDが欲しい!

しかしどうして「オールスターズ」っていう題になったのでしょうか。
彼らのチームの名前は「スフィフト・ボーイズ」です。

オランダ映画祭、せっかくブルーナーの描いたオリジナルキャラクターののぼりやポスターなんかがあるのですが

今回もラインナップは異様に地味です。
この「オールスターズ」も含め、無名の作品ばっかりです。
当然ながら集客力も期待できず、せめて最近日本で一般公開された(且つ評判も良かった)「ブラックブック」とか「オランダの光」とかがプログラムにあればよかったのだろうに、と思います(権利問題がクリアできなかったのでしょうか)。
でも、地味でも外れが少ないのがオランダ映画。
そこはベルギー映画と同じかしら。
(大きな違いは、ベルギー映画には美少年がつきものだってこと。)