2024年11月18日月曜日

ぼくとパパ、約束の週末~推しの旅はこれから

 



自閉症の少年ジェイソンが推しのサッカークラブを見つけるために父と週末ドイツ国内スタジアム巡りの旅をする。

10歳のジェイソンが贔屓クラブを決めるにあたってのルールが「サステナブル」とか「ナチス排除」とかグレタさんっぽい地球環境問題活動家的な視点があるのはちょっと滑稽な感じもするし、ソックスやシューズが単色とか円陣組まないとか残念なマスコットキャラがいないとかもはや笑える・・・が本人は真剣なんだろう。

元来、アンチになるのには一定の理由があって然るべき(「親ナチである」「サポーターが酷い」「バックの企業がボイコット対象」「勝利至上主義が嫌」等々)かもしれないが、あるチームのファンになるって別に理屈や条件に合っているからじゃないんだよね。少なくとも私の場合。殆ど運命的なもので、この映画の中で「ゆりかごの中で決まる」みたいに表現していたように。

私が清水エスパルスのファンなのは元々清水東高校のファンであったからで、偶々三羽烏さんたちの試合を観たからだったし、チェルノモーレツ・オデッサについてはあの階段で花火を観ようとしたときに前にいた背の高い若者たちがチェルノモーレツのチャントを歌い騒ぎながらも私たちに見やすい位置を譲ってくれたからであったし、クルィリヤ=ソヴェートフ・サマラに関しては祖母が1920年代から30年代にかけて最初にエスペラントで得たペンフレンドがクイビシェフ(現サマラ)の人であったり疎開してきたショスタコーヴィチの心を慰めたであろうクラブだから、とか一応後付けで理由は述べられるが、何となく応援するようになったというところで、「この条件をクリアしないとだめ」というジェイソン君の行動は最初からうーん何か感覚違うなというのはあった。

それと、ドイツサッカーでは皆さんビッグクラブよりも地元のクラブを愛しているという風に聞いていたが、この映画だと周囲の人たちは結構バイエルン(父の上司)とかドルトムント(母と祖父母)とかビッグクラブ推しで、地元愛どこに行った?という印象(ミルコおとーさんが贔屓のフォルトゥナ・デュッセルドルフも現在2部ながら古豪のビッグクラブと言ってよいと思う。住んでいるのはハーンのようなので、デュッセルドルフはノルトラインヴェストファーレン州の州都で地元扱いなのか?)。ドイツ国内56クラブ(←意外と少なくない?)を実地で試合を観て決めるというので週末のスタジアム巡りが始まるが、最初のニュルンベルクとか勿論バイエルンもドルトムントもスタジアムは立派でサポーターも熱狂的ながらも無茶苦茶荒れるわけでもなく、自閉症児のジェイソンも他の場所で起こすようなパニックになるのは何とか抑えられて(見ていてはらはらするが)、スタジアムがアンセムに包まれて皆幸せそうな雰囲気になる。特にドルトムントのYou'll Never Walk Aloneは絶対こういう場面で使うだろうと思っていたシーンで流すわけですよ。ずるい。(映画館内で思わず唱和しそうになる。)歴史ものでフィンランディアが流れるようなもので、お決まりというかお約束というか、まあそれでも素直に感動するんですけどね。

サッカー場の雰囲気にジェイソンが徐々に馴染んで、そろそろ贔屓のクラブを決めてくれるのかと父が期待すると、最初から挙げているいろいろ難しい条件があと一歩クリアできずに旅が続いていく。まあ最初から56のクラブ全部検証してから決めるつもりなんだろうけれど。

実質的にトップリーグのクラブのスタジアムが続く中、ミルコの出張先で試合を観ようということになってラトヴィアはヴァルミエラまで旅する二人。天文に詳しいジェイソンが下調べして素敵な瞬間を目にすることになるが…。ヴァルミエラ、しかしスタジアムのトイレがきちゃない。私がリトアニアのデパートで体験した(但し1994年のことなので、当地で現存するのかわからない)ような和式、というのだろうか、跨ぐタイプの便器なので、ジェイソンはショック!(絡んできた輩はロシア語っぽかった。)「解決して!」と叫ぶが。ジェイソン、天文のことは下調べするけど、こういうことは調べていかないのね(と、このあとのヘルタ対ドルトムントの試合の際も思った)。

このヴァルミエラのスタジアム(Valmieras Olimpiskais centrs)と、とんだハプニングから観ることになったSVバベルスベルク03のカール・リープクネヒト・スタジアム(ポツダム)が、私がサッカーファンになった頃を彷彿とさせるスタジアム光景ですな。

カール・リープクネヒト・スタジアム。何とも素敵な響きのスタジアムですね。(ちなみにローザ・ルクセンブルク・スタジアムは見当たらないそうです、残念ながら。)ここ及びバベルスベルク03も良さげな感じだったのでジェイソンの贔屓のクラブも決まりそうかなと思わせて…

でも、最初にも書いたけれど、贔屓のチームって、条件クリアして満点のところを選ぼうとしたら結局どこも満足できずに人生の最後まで見つからないんじゃないかって思える。電光石火かいつのまにかか、とにかく好きになっちゃう、それから推しの人生が始まるのよ。

ジェイソンとミルコの旅はまだ続いているそうだ。贔屓のクラブが決まらなくても、スタジアムに足を運び、試合を観ること自体が楽しくて旅を続けているんじゃないかな。

あと、新宿ピカデリーで売り切れちゃったのか元々作っていないのか、プログラムがなかったが、こういう映画こそパンフレットが欲しい。ドイツの地名やクラブに詳しくないので。