2012年8月5日日曜日

その試合に勝つということは

原題は«Матч»(試合)という、ダルデンヌ兄弟監督作品並みにシンプルで素っ気ないものです。
それでも「その試合」がどの試合を指すかは、察しの良い方はもうおわかりですね。
今年が70年のメモリアルイヤーとなる、スタルト・キエフ*とドイツ空挺部隊チームFLAHELFとの間で行われた「死の試合」のことです。
ドイツ軍占領下のキエフで、ドイツチームを勝たせるために設定された試合(8月6日)でスタルト・キエフは5:1で圧勝してしまいます。
面目を潰されたドイツチームは(よせばいいのに)リベンジマッチを持ちかけます。
1942年8月9日に行われたこの「死の試合」では、ドイツに勝たせろとあからさまな圧力を受け、強要されたナチスへの敬礼をも拒否して、スタルトはまたしても勝ってしまうのです。
勝てば収容所行き、そして処刑が待っているという苛酷な状況下でも、彼らは勝利に飽いていました。
そして、彼らを待っていたのは…。

主人公ニコライ・ラネヴィチ(ディナモ・キエフ及びソ連代表のGK。ニコライ・トルセヴィチをモデルにしている)を演じるのはセルゲイ・ベズルコフ。「続・運命の皮肉」でちょっと可哀想な役どころだったイラクリーを演じていた人。これもねえ。

GKの技術指導をしているのは元ロコモチフ・モスクワ及びロシア代表GKの「ボス」ことセルゲイ・オフチンニコフ!!
ディナモ・キエフでキーパーのトレーナーをしていたご縁でしょうか。

ちょっと残念なことにウクライナ映画ではなく、ロシア映画です。
(補遺:ロシア・ウクライナ合作ではあります。)
しかも、とっておきの良い素材を扱いながら、監督に力量がなかったのかその他にも原因があったのか、ロシアで公開されての評判もあまりよくはなかったようです。
それでも、日本で公開してほしいサッカー映画であり、歴史映画です。

「死の試合」を題材にした映画では「勝利への脱出」«Победа»(かなりアレンジしている)が有名ですね。
最初の映画化作品は1962年のソ連映画«Третий тайм»(第三の試合時間)**です。

また、ロシア・ソ連文化についての大家である山田和夫さんによれば«Két félidő a pokolban»「地獄のハーフタイム」というハンガリー映画があるそうです。
このあたりのことはだいぶ前にこちらに書きました。

*強豪ディナモ・キエフの面々にロコモチフなどキエフの他のチームの選手も加えての合同チーム。戦時中且つドイツ軍占領中のキエフであるため、厳しい条件下でサッカーのリーグを何とか続けていたわけです。
**ロシア語ではサッカーの試合の前半を「第一のタイム」、後半を「第二のタイム」と言います。「第三のタイム」という言葉はありません。これは試合の後のスタルトの選手たちの運命を暗示するタイトルです。Евгений Карелов監督のモスフィルム作品。

公式サイトはこちら
«Матч»
2012年ロシア
アンドレイ・マリュコフ監督
«34-й скорый»(暴走特急34)の監督さん。